いぼ痔について
友寄クリニック 院長 外科担当の川上です。2020年4月に外科、内視鏡外科、肛門外科を開設いたしまして4年間この分野の診断、治療に従事させていただいており、お陰様で4年間で約2000例の患者さまの手術療法に携わらせていただきました。 2024年6月より日々の診療を行う中、患者さんにお伝えしたいことや備忘録としてのブログを不定期にupすることといたしました。 肛門の疾患で困っている方や時間が許される方は是非このブログへお立ち寄りください。
さて当院で専門的な診療を行っている痔と鼠径ヘルニアですが、今回は痔核についてのお話です。
肛門周囲の病気を大雑把に痔といったりします。 代表的な疾患は肛門周囲、肛門の中にいぼができるいぼ痔、肛門の皮膚(肛門上皮)が切れる切れ痔、肛門周囲に小さな穴ができて時に膿を排出するあな痔が3大疾患といえます。
今回はいぼ痔についてお話します。
いぼ痔(痔核)は肛門上皮(肛門の皮膚)の下の血管やその他の柔らかい組織が次第に肥大化して出血したり肛門周囲に常時突起していたり、肛門内から飛び出してきたりする状態です。
従いまして、痔核の症状は出血と脱出、それにともなう疼痛、腫れた感じ、痔核表面についた粘液や便汁によるかゆみ、べちゃべちゃした感じなどです。
いぼ痔の種類として痛みを伴う
血栓性外痔核(けっせんせいがいじかく)
外痔に血豆ができて急激に痛みと腫れが出現します。
嵌頓痔核(かんとんじかく)
飛び出した痔核が肛門内に戻れなくなり血液の流れが滞り痔核の腫れと激痛を生じます。
これらは通常保存的に治療を行います。嵌頓痔核は痛みと病歴また社会的背景を考慮し手術を行うこともあります。(但し手術にはある程度高度な技術が必要です)
通常痛みを伴わない痔核
症状は痔核が肛門から飛び出してくることに伴う症状で飛び出し方の程度により分類されています。(Goligher分類)
1度 排便時にうっ血し、肛門内で膨隆する
2度 排便時に内痔核が脱出するが、排便後に自然還納する
3度 手で収めル必要がある痔核
4度 痔核が大きく外痔核まで一塊化しているため完全には還納できない。
外科的治療が必要なのは主にこの分類の3.4度です
治療は
- 結紮切除術
- ゴム輪結紮術
- 硬化療法
- 分離結紮法
- その他 (ACL mucopexy PPH など)
結紮切除術
結紮切除術後はどのタイプの痔核にも適応できる術式で痔核手術のgolden standardといってもいいでしょう。 この術式は肛門外科では必須の手技です。
この手技を行えない施設で痔核の治療を行うと適切な治療を行ってもらえないリスクがあります。通常手術室にて腰椎麻酔 静脈麻酔+局所麻酔 全身麻酔などで行います。腰椎麻酔が一般的です
通常ジャックナイフ体位で手術を行います
典型的な内痔核
3箇所を鉗子で把持して切除イメージを作ります
痔核を牽引し
剥離し
結紮切除します
当院では開放術式か半閉鎖で創部を処理します
3箇所切除した状態です。
半閉鎖術式
ゴム輪結紮術
痔核をゴム結紮し血流障害を起こして自然脱落を起こさせる方法
基本的に内痔核のみに使用可能な術式です。再発率は12%との報告があるが単一施設の報告で追試も特に見当たらず正確な治療成績は不明、メインの治療というよりは結紮切除の補助治療として使用されることが多い
直視下に行ういわゆるゴム輪結紮法と内視鏡で輪ゴムをかける(endoscopic hemorrhoidal ligation )EHL法があります 適応は内痔核のみとなります。
これは日帰り手術として行われることが多いのですが手術適応が限られ抗凝固剤使用中の患者さんには適応外となります。 外痔があるにも関わらずこの手術を行っても十分な治療とはなりません。当院ももちろんこの手技は行えますが補助的治療という位置づけです。
肛門操作によるゴム輪結紮法
結紮された内痔核 この後、血流障害を起こして痔は脱落します
EHL 大腸ファイバーで痔核を吸引しゴム輪を痔核の根本にかける手技です。
硬化療法
- パオスクレー硬化療法 保存的治療抵抗性の出血性内痔核の症例に使用される。痔核本体に直接注入する。効果は1年程度再発はほぼ必発。
- ALTA(ジオン)硬化療法 肛門から脱出する内痔核に適応あり 出血性内痔核にも強い止血効果を持つ。4段階注入法という手技で痔核上部 痔核本体 痔核下部に薬液を注入する方法。
ALTA単体では経年で再発率は上がるが概ね10-20%程度の再発率。近年は痔核切除との併用で低侵襲手術や日帰り手術に多く使用されている。
パオスクレー硬化療法
ALTA(ジオン硬化療法)
分離結紮法
内外痔核に対する根治療法である。手技が簡単で古典的な方法。 以前の大きく痔核を切除する結紮切除術と比較すれば出来上がりが柔らかい肛門となるが、現在の進化した低侵襲結紮切除術とは創部の柔らかさは同等である。
痔核を鉗子で把持し、引き出した後に太い糸をつけた針を痔核の中心部から刺通結紮し両側で結紮するのみの手技。
この術式は手技が簡単であるが患者さんの疼痛が強く、長期間痛みが持続するため保険適応外の鎮痛薬(塩酸キニーネ、現在は入手不可)などを使用していました。
その他
ACL、PPHなどあるがそれぞれ 問題点もありいづれも結紮切除術と比較して実績的に標準術式とは言い難い状況ALTA同様に結紮手術にうまく組み合わせて行う手術と筆者は考えています。
痔核手術を受ける場合は結紮切除術に習熟し、手術室を完備し、できれば麻酔も局所麻酔のみでなく脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔も行える医療機関を選んだほうが確実であると思います。最低限、結紮切除術を習得されていない肛門科で治療を受けることは手術適応、術式適応が歪められる可能性があり結果として手術は行ったが満足できない結果に結びつく恐れがあると思います。