/ 妊娠中の痔疾患
妊婦とくすり
妊娠中に痔核で苦しむ女性は少なくありません。いぼ痔、切れ痔、痔が飛び出して戻らない。色々な訴えで肛門科へ受診されます。ところが妊娠中の痔には、ほとんど使用できる薬はありません。特に妊娠初期、妊娠2か月以内に使用できる薬はごく少数です。ステロイドの入った座薬はすべて使用できません。脱出する痔を治す画期的な注射薬、アルタは妊娠、授乳中は 使用禁忌です。 痛み止めのアセトアミノフェンの短期間使用(1週間程度)は許可されていますが、この薬の使用も厳しく制限されているために、唯一自宅でお風呂に入ってお尻を温めるぐらいです。
また硬い便が出ないように便を柔らかくする緩下剤、酸化マグネシウムの内服は許可されています。 妊娠後半になると胎児の成長と下降に伴って、母体の骨盤の静脈叢が圧迫され痔静脈がふくれてきます。このため母体の肛門部がうっ血し痔が増々腫れてきます。妊娠末期にはさらにひどくなり痛みが強くなります。また便秘が悪化する妊婦さんも多いです。
お腹も大きくなり、肛門も痛くなり、お母さんは本当に大変です。特に妊娠の痔で問題になるのが、いぼ痔が脱出したまま戻らなくなる「陥頓痔核(かんとんじかく)」と言われるもので、たいへん痛くお母さんを苦しめます。
肛門科へ受診する妊婦さんの大半はこのような症状の方です。妊娠初期にはステロイドの入った座薬の使用は禁止されていますが、妊娠末期には使用しても問題はありません。 ただし痛み止めの座薬は胎児への心臓疾患の発生の危険性があるため使用してはいけません。 このように妊娠による肛門への影響は様々な症状でお母さんを苦しめます。
妊娠する前に肛門疾患を持つ方は、一度肛門科を受診することをお勧めします。もしくは出産が終わり、お子さんの手が少し離れた頃に診察を受け、必要な治療を済ませて快適な排便生活を送って下さい。 二回目の妊娠のためにも、余裕ができた時に肛門科医へ相談してください。
適切なアドバイスを受け、生まれてくる我が子のためにも、お母さん、がんばってください。
当院では嵌頓痔核 裂肛などに対しては
ボラザG軟膏または座薬短期間投与
排便コントロールでは食事療法(食物繊維の多い食事)規則正しい生活、入浴時はバスタブにゆっくり浸かること 投薬として酸化マグネシウム内服
疼痛に関してはアセトアミノフェン短期投与で対応及び可能な限り頻回の座浴などを 勧めております
妊娠の各時期による薬剤の影響の変化
妊娠の各時期 | 薬剤の影響 |
妊娠4週未満 | まだ胎児の器官形成は開始されておらず,母体薬剤投与の影響を受けた受精卵は,着床しなかったり,流産してしまったり,あるいは完全に修復されるかのいずれかである。ただし,残留性のある薬剤の場合は要注意である。 |
妊娠4週から7週 まで | 胎児の体の原器が作られる器官形成期であり,奇形を起こすかどうかという意味では最も過敏性が高い「絶対過敏期」である。この時期には本人も妊娠していることに気づいていないことも多い。 |
妊娠8週から15週まで | 胎児の重要な器管の形成は終わり,奇形を起こすという意味での過敏期を過ぎてその感受性が低下する時期。一部では分化などが続いているため,奇形を起こす心配がなくなるわけではない。 |
妊娠16週から分娩まで | 胎児に奇形を起こすことが問題となることはないが,多くの薬剤は胎盤を通過して,胎児に移行する。胎児発育の抑制,胎児の機能的発育への影響,子宮内胎児死亡,分娩直後の新生児の適応障害や胎盤からの薬剤が急になくなることによる離脱障害が問題となる。 |
授乳期 | 多くの薬剤が母乳中に移行する。児には消化管を通しての吸収に変わる。 |
妊娠週数については,最終月経からの計算では、ずれが生じる可能性に留意する必要がある。
妊娠の時期別の薬の影響
受精後~妊娠1か月の場合
妊娠の時期によっても薬の影響は異なります。受精後~妊娠1か月は、薬の影響が出ない場合と出る場合があります。受精卵へ薬の影響が出ない場合は、後遺症を残すことがなく、胎児に後に残るような影響を及ぼしません。 一方、影響が出る場合は、着床できずに流産してしまいます。ですから、妊娠を希望している女性は、妊娠の前から慎重に薬を使うようにしましょう。
妊娠2か月~4か月(14週未満)の場合
妊娠2か月~4か月すぎ(14週未満)は、胎児が薬の影響を最も受けやすく、「先天異常」の発生と関連する重要な時期です。上の図の赤色が濃いほど影響があります。特に妊娠2か月は、中枢神経や心臓などの重要な臓器、そして手や足などが作られる時期のため、最も注意が必要です。 妊娠3か月~4か月すぎは、薬の影響はやや低くなりますが、男女の”性”の分化に影響があります。また、口の中の「口蓋(こうがい)」という上あごが作られる時期です。引き続き、薬の使用は慎重に検討しましょう。
妊娠4か月(14週以降)~出産
妊娠4か月(14週以降)~出産までの時期は、基本的に薬による先天的な体の異常は起こりません。しかし「胎児毒性」といって、胎盤を通過した薬が胎児に悪い影響を及ぼすおそれがあります。 一般に胎児への影響は、上の図で言うと紫色が濃いほど、つまり出産に近い方が大きいと言われています。具体的には、発育が抑えられたり、臓器に障害が出たり、羊水が減少したりすることがあります。
妊娠中の使用に注意が必要な薬とサプリメント
妊娠初期に注意したい主な薬
妊娠2か月~4か月(14週未満)に注意したい薬の例です。
抗血栓薬「ワルファリン」
血栓ができるのをおさえる薬です。本来ならば薬を中止してから妊娠したいところですが、薬をやめてすぐに妊娠するとは限りません。そのため妊娠を計画的に行います。薬を使用したまま妊娠にトライしてモニタリングし、妊娠がわかった時点でほかの薬に変更するなどして対処します。
免疫抑制薬の「ミコフェノール酸」
ミコフェノール酸は、妊娠可能な20~40代の女性に多い病気の「全身性エリテマトーデス」の治療薬として、2015年に保険適用になった薬です。この薬は、使用を中止してから6週間以上あけて妊娠することがよいとされています。 妊娠を希望している患者さんは事前に薬の変更を担当医に相談しましょう。
妊娠中期以降に注意したい主な薬
妊娠4か月(14週以降)~出産までの間に注意したい薬の例です。
降圧薬の「ACE阻害薬」と「ARB」
胎児の腎臓を障害します。生命に関わる場合もあるため、この薬を使っている方は計画的に妊娠をして、妊娠がわかったらほかの薬に変更しましょう。
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)
妊娠後期(8か月以降)には、解熱や痛み止めの薬として使用される非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の使用に注意が必要です。妊娠後期に大量に使用すると、心不全や胎児水腫が胎児に起きる可能性があります。
妊娠にあたって是非とも避けたい薬剤
・抗菌薬
・抗ウイルス剤 リバビリン,キニーネ • 抗高脂血症薬 プラバスタチン,シンバスタチンなど
• 抗ガン剤
• 麻薬 • 睡眠薬 フルラゼパム,トリアゾラムなど
• 抗潰瘍薬 ミソプロストール
• 抗凝固薬 ワーファリン • ホルモン剤 ダナゾール,女性ホルモン
・ワクチン類 麻疹ワクチン,おたふくかぜワクチン,風疹ワクチンなど
• その他 エルゴメトリン,ビタミンAなど
慎重に使いたい主な薬剤
・抗菌薬・抗ウイルス剤 アミノグリコシド系,テトラサイクリン系
• 降圧剤 βブロッカー,ACE 阻害剤,アンギオテンシン II受容体阻害剤など
• 抗けいれん剤 フェニトイン,フェノバルビタール,バルプロ酸など • 抗うつ剤 イミプラミンなど
• 非ステロイド抗炎症薬 アセトアミノフェン以外の抗炎症薬
• 向精神薬 リチウム
・利尿剤